次男くんはコーヒー牛乳が大好きなのです。
どのくらい好きかと問われれば、カルディの前で無料で提供してくれるコーヒーを家族分全員もらってくれと言うくらい。
まああれはコーヒー牛乳ではありませんが、とにかくああいうやつが好きなのです。
彼はコーヒー牛乳を飲む時のディテールにもこだわります。
「神は細部に宿る」のです。そのように彼が言ったか言わないかは定かではありません。
瓶に市販のコーヒー牛乳を注いで飲むのです。
雪印のコーヒーなのに瓶は明治じゃないかって?
そこは関係ないのです。彼はコーヒー牛乳が好きなのですから。
そんなに好きなら牛乳配達を注文してあげればいいんじゃないかって?
彼はその存在を知らない、純粋な少年なのです。このまま知らせずにいようと思います。
いいのです、とにかく彼はコーヒー牛乳が好きなのですから。
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先日、家族でスーパー銭湯に行きました。
当然ですが彼が楽しみにしているのは展望露天風呂でも打たせ湯でもサウナ後の水風呂でもありません。
彼の楽しみ、そう、それこそがコーヒー牛乳。
お風呂から出た後のコーヒー牛乳が彼は楽しみすぎるのです。
それゆえに、コーヒー牛乳が無いスーパー銭湯は存在意義が無いとまで彼は言い切ったとか言わなかったとか。
その日、たまたま男湯の脱衣場にある自動販売機ではコーヒー牛乳が売り切れていました。
脱衣場を出てから他の自動販売機を探します。しかしどこにもコーヒー牛乳はありません。
この世の終わりかのように落胆する次男くん。
その様子はさながら、野島真司脚本のドラマに出てくる三上博史のようでした。
しかし、うなだれている彼はそこで一筋の光を見出します。
女湯から出てくる同年代くらいの女の子がコーヒー牛乳を持って出てくるのを彼は目ざとく見つけたのです。
一緒にいた僕も長男くんも全く気づきませんでした。なので、本当に?と半分疑ってました。見間違いではないのかと。
砂漠に見えるオアシス、あれは蜃気楼というものだったりするんだよと説明したりもしました。
しかし、彼は妻がお風呂から出てくるのを待ちました。ひたすら待ちました。
喉が乾いているはずなのに。
隣で長男くんは美味そうにビタミンたっぷり入っていそうな名前のレモン味炭酸ジュースを飲んでいるというのに。
彼は愚直に信じていたのです、女湯にはコーヒー牛乳が存在すると。
妻が女湯から出てきました。
彼は女湯にはコーヒー牛乳が売っていたのかどうか確認します。
すると妻の返事は「あったかも?」
確認してきて欲しい旨と、もしあったら買ってきてもらいたいと妻にお金を渡して彼は懇願します。もう一度、女湯の脱衣場に入ってコーヒー牛乳を、と。
妻が再度、女湯に消えていきます。
固唾を飲んで待つ次男くん。
そして、女湯から出てきた妻の手に握られていたのは紛れもない茶色い液体の入った瓶でした。
やはり、彼の中にはコーヒー牛乳を察知するセンサーがあったのです。
あの高収入で有名な企業の技術も真っ青なくらいの高性能なセンサーが。
そして、その妻の手にあるコーヒー牛乳の瓶を見た時の次男くんの嬉しそうな顔たるや。
破顔するとはこのようなことを言うのだなと。
しかし、彼はそれをすぐには飲み干しません。楽しみながら、まるで塩をアテにしながら飲む日本酒のようにチビチビと飲むのです。
オツなのです。
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イチロー選手は引退会見で野球を愛してきたと言いました。
彼はこの先、コーヒー牛乳に対してその言葉を向けるのかもしれません。
今回はこの辺で!